ガン細胞にホウ素を取りこませ狙い打ち

ホウ素中性子捕捉療法でガン細胞を破壊(2012.10.8)

 今日の毎日新聞の医療健康欄に「ホウ素中性子捕捉療法」というガンの新しい治療法に関する見出しが出ていて、思わず引きつけられました。(リンク先は毎日新聞ではありません)

 そもそもガンの治療というのは、「切除」「放射線」「抗ガン剤」という三つの方法に大別されるわけですが、切除の場合転移がないことが条件になり、放射線の場合は新たながんの発生、抗ガン剤は副作用という負の条件があり、さらに全体に共通するのは正常細胞まで傷つけてしまうと言うことでした。

 そこでガン細胞だけが持つ特徴を見つけて、ガン細胞だけに働く薬剤を作れないかと考案されているのが分子標的薬ですが、これも副作用の問題や抗ガン効果が顕著でない場合もあり、すべて完璧に実用化されたとは言いがたい状態です。(一部の分子標的薬は実用化されています)

 ただガン細胞をなんとか他の細胞と区別して薬の作用を高めようという考え方は、ひじょうに重要な部分で、今回のこのホウ素中性子捕捉療法は、先ず第一段階でガン細胞にホウ素の印を付けるということが特徴です。

 ホウ素というのは、聞き慣れない言葉ですが、ホウ酸というのは殺菌剤や殺虫剤に使われたりして、薬局等でも売られていると思われる薬品です。このホウ酸の中に含まれている元素がホウ素というもので、化学的には原子番号5番(原子の原子核内に入っている陽子の数が5個で、原子核の周りに存在している電子も5個)で質量数が11(原子核内の中性子の数が6個:陽子数と中性子数を足したものが質量数)という物質です。

 ただ自然界には、陽子数が同じで中性子数が異なる同位体と呼ばれる物質も多くあり、この療法では中性子が10個のホウ素を使うみたいです。これを使う理由は、要するに中性子が10個しかない場合、物質として不安定で壊れやすいということで、この壊れやすさを利用します。

 何が有利かというと、そもそもガン細胞はホウ素という物質を取りこみやすい、と言う部分に注目したと言うことです。そこで血液を介してこの質量数が10のホウ素をガン細胞に取りこませるのが第一段階。

 次にこのガン細胞に微量の中性子線(これは原子核内に含まれている中性子だけを取りだし、ビーム上にしたものですが、中性子は正負の極性を持たないので、このビームを作ることが難しかったようです)を照射。これが第二段階。

 するとこの中性子線(放射線の一種ですが)がガン細胞内のホウ素原子にぶつかると、すぐにその衝撃でホウ素原子が破壊されます。これが第三段階。

 ホウ素原子が破壊されたことによって、それを取りこんでいたガン細胞も破壊されるので、ガン細胞だけが中性子線の影響を受けて破壊されるという結論になります。

 壊された後の残骸はリチウムとヘリウムという物質で、これがその後どうなるかということまでは記載がありませんので良く分かりません。またホウ素がガン細胞に取りこまれやすいと書かれていますが、正常細胞も取りこむ可能性は残されています。

 ただ中性子線の精度が上がれば、細胞一つずつをより分けて照射することも可能になるみたいですから、化学的に分子標的薬で破壊するのではなく、物理的にターゲットを絞って破壊できるという意味で画期的な技術だと思います。

 この臨床試験がこれから18人を実施対象にして始まるそうです。今は特殊なガンのみの臨床試験のようですが、記事では3年後を目指して実用化を図ると言うことになっています。副作用等の問題が生じなければ画期的な治療法になる可能性が高いです。



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