昨日の毎日新聞朝刊に『
がん細胞「非対称分裂」撮影』という記事が出ていました。すでにご存じの方も多いと思います。
撮影に成功したのは、
埼玉県立がんセンター臨床腫瘍研究所で、すでに昨年10月「米国科学アカデミー紀要」に掲載されているそうです。
問題はその中味ですが、撮影に成功したのは「がん細胞の中でも抗がん剤や放射線に抵抗性が高い「
がん幹細胞」とみられる。」とのことで、要するにがんを発生する原因となったおおもとの細胞が分裂するときの様子を撮影できたと言うことのようです。
そこまでは単に
細胞分裂の話ですから、別段とりたてて騒ぐほどのことはないのですが、問題は
分裂後の細胞が「非対称」である、ということです。
そもそも細胞分裂というのは、高校の生物でもひじょうに重要な事項として細かく写真が掲載され、その分裂の様子をきちんと順を追って説明していきます。
説明の要点は何かというと、特定の幹細胞(元になる細胞)を除いて、通常の細胞分裂は、
1個の細胞からまったく同じ細胞が2個生まれると言う点を強調します。
つまり皮膚の細胞からは、遺伝子が同じで、性質もまったく同じ皮膚の細胞しか生まれないということです。そうでないと、極端なことを言えば、皮膚が突然神経になったり骨になったりしてしまいます。
ところががん細胞というのは、ある時期から突然異常な増殖が始まり、それを制御することが出来なくなる性質を持っています。そこでそれらのがん細胞に対して様々な薬品を投与して増殖を抑えようとするわけですが、相手が同じ性質を常に維持していればそれらの薬も効果を発揮します。
つまり
インフルエンザに対してタミフルが効果があるのとまったく同じです。
ところが今回のニュースのように、一つのがん幹細胞が分裂するとき、新たに出来たがん細胞が違う性質を持ってしまうと、それに対して最初は効果があった薬剤が、新たに出来たがん細胞には効かないことが予想できます。
つまりこのがんはたちが悪いとか悪性である、という言い方をよくしますが、それは
化学療法が効きにくいがんだと言うことで、その根本原因は、こういった非対称性の分裂に寄るところが大きいのではないかという考えです。
その意味で、実際にがん細胞がまったく同じ二つのがん細胞に分かれるのではなく、違う性質を持ったがん細胞になるという証拠となる画像を撮影できたと言うことは大きな意味を持つのだと思います。
つまりこれまでは「もしかしたらそうかもしれない」と思いつつ治療を行っていたわけですが、今後はそういった
非対称性の分裂が現実に起きていると言うことを認めながら有効な薬剤を開発するという流れになるのだと思います。