イレッサ訴訟、原告敗訴について(2012.6.1)

 5月27日の毎日新聞朝刊の社説に出ていた記事が気になりました。題名は「イレッサ原告敗訴」というものです。薬害訴訟の裁判ですね。

 「イレッサ」というのは肺ガン治療薬の事で、ガン細胞の特定の目印を標的にして、その細胞だけを選択的に阻害する内服薬です。一般的には分子標的治療薬と言われています。正式名称は「ゲフィチニブ」といいます。

 日本で承認されたのは2002年7月のことで、これは世界では一番最初だったようです。

 そこまではいいのですが、当初は肺ガンに一定の効果があり、副作用が少ない薬として導入されましたが、実際には間質性肺炎になる患者さんがいることが分かっていました。

 間質性肺炎というのを調べてみると、肺胞(体内に取り入れた空気が最終的に行きつくところで、ここで酸素と二酸化炭素の交換が行われます)とそれを取り巻く毛細血管の間の組織(間質)が炎症を起こすらしく、通常の肺炎とは異なります。

 問題はここからですが、新聞記事に寄ればこの薬が販売された後、わずか半年で間質性肺炎で180人が死亡、2年半で557人が死亡したことで、どうしてそれほど大きな被害が生じたのかと言うことです。

 肺ガンを治したい、というのは患者さんと医者の共通の願いですから、新しい効果的な治療薬が出れば試してみようという気持ちになるのは当たり前です。

 ただそこに肺炎というリスクが銘記されていたのに、使用してしまった場合、その責任を誰がとるのか、という事です。

 裁判では添付文書に間質性肺炎を発症する可能性があることは医師なら読み取れるはずで、製造元に責任は無い、つまり原告敗訴という決定になるわけですが、添付文書の片隅に書いてあったからまったく責任が無い、という裁判所の決定にはやはり疑問を感じます。

 私がこの裁判で気になったのは、こういった判断が司法の場で当たり前のように行われるならば、添付文書で副作用を羅列すれば、薬の使用はすべて医師の判断と患者本人の自己判断に委ねられるということです。

 つまり風邪薬一つの飲む場合も、副作用が書いてある添付文書をすべて読み、すべてのリスクを理解してからでないと飲めないことになって、もし万が一変な副作用を感じたとしても、それが添付文書に書いてある内容なら製造会社の責任は問えないし、なんらの保障も得られないということになります。

 ましてやマスコミがもてはやし、医師に勧められて服用した場合、特に最先端の分子標的薬の副作用など患者側に分かるはずもなく、副作用による死者が出た段階で国や製造会社はすぐに警告すべきです。

 それを添付文書の片隅に危険性は書いてあるからと言うだけで何もせずに漫然と販売を続けた責任は明らかに製造会社にあり、さらにそれを見逃していた国にも責任がある、と考えるのが当たり前のような気がします。

 今回の裁判ではその当たり前に思えることが通らなかったということで、寒気を覚えます。  



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