物質の移動と熱運動

 細胞を外から見て、目の前に細胞膜が平面状に広がっているとすると、前ページで書いたリン脂質の頭の部分だけが並んで見えていることになります。その向こう側に足が出ています。

 一方その足の向こうには、また同じようなリン脂質が足を向けて並んでいますので、細胞の内側から細胞膜を見ても、やはりリン脂質の頭が並んでいるように見えるはずです。

 しかもこのリン脂質はどうやら動き回る人間の群集を上から見るのと同じように、自由に位置を変えることが出来るようです。つまり膜そのものが流動的だということです。

 また昨日のページのリンク先で、細胞膜の構造図を見てみると、このぎっしりと並んだリン脂質の所々にたんぱく質のパイプが出来ているような図が書かれています。

 また一部のたんぱく質の先端には「糖鎖」と呼ばれる紐のようなものが伸びていて、この形状が細胞の識別を表しています。

 ということは、特定の細胞を見分けるためには、この糖鎖と呼ばれるたんぱく質を分析すればよいということになります。

 まだ不勉強でよく分からないのですが、いわゆる悪性腫瘍の治療で、分子標的薬というものがありますが、この分子標的という意味は、細胞の表面にある特定分子を見分けて結合するという意味のようなので、それがこの糖鎖と関係していると思われます。

 しかしこのあたりになってくると薬学と分子生物学の領域に入ってしまい、知識が追いつきません。残念です。

 ともあれ細胞膜というのは、流動的なリン脂質が平面的に並んだものであり、そのところどこにたんぱく質でできたパイプがあって、このパイプが様々な物質の輸送に役立っていると思われます。

 では実際問題どのように、細胞は細胞内外で物質のやり取りをしているのか?これには今度は基礎的な化学の知識が必要になります。

 というわけで物質が移動するときの基本的な知識から。最初に知っておかなくてはいけないのが熱運動

 これは物理と化学の両方の領域にまたがるものですが、内容は割りと簡単。そもそもすべての物質を分子レベルまで詳細に観察していくと、それらの粒子は絶えず動き回っているという現象に出くわします。

 このとき、自分の位置をあまり動かずに、特定の位置で振動しているような状態になっている物体を、我々が目で見ると、その物質は「固体」に見えます。

 次にある程度それらの粒子が自由に動ける状態になったものが「液体」です。一般的には、固体から液体になる時は熱を吸収する(逆に言えば加熱する)必要があり、その熱で固定された場所から開放されると考えてよいと思います。

 当然ながら動きが大きくなるので、一般的には固体よりも液体の方が体積が大きくなります。但し唯一の例外があって、それがもっともポピュラーな物質である「」です。

 水の固体は氷ですが、氷は水に浮きます。すなわち同じ体積なら氷の方が軽いという不思議なことが起きます。これ以外の物質は固体の方が重たくなっています。

 横道にそれますが、何故水は氷になると軽くなるのかと言うことですが、どうやらその分子の形が二等辺三角形になっていることが原因のようです。

 というわけで、水(液体)にさらに熱を与えると、今度は水蒸気(気体)になりますが、粒子レベルで見れば、、これはここの粒子がすべての束縛を逃れ、勝手に動き回っている状態だと言えます。

 このとき、熱を加えれば粒子の運動が激しくなっていくわけですが、この粒子の運動を「熱運動」と呼ぶわけで、その熱運動の大きさを、我々は便宜的に「温度」として理解していることになります。

 ということは、同じ液体でも温度が高いほうが熱運動は激しくなっていて、温度が低くなっていくにつれ、その運動が緩やかにあり、ある時点で特定の場所に束縛されるようになります。それを外から眺めると、水から氷になったという現象を観察できるわけです。

 このことは実はひじょうに大事で、化学反応が起きるためには、こういった熱運動によって粒子同士が衝突する必要があるわけで、当然ながら一般的には温度が高いほうが衝突が頻繁に起こり、反応しやすくなるので、通常の化学の実験では、よく全体を加熱するということを行います。

 さらに言えば、それと同じことが我々の体内で起きているわけで、ごく単純に酵素等の反応を抜きに考えれば、体温が高いほうが体の中での化学反応は活発になるということです。

 逆に体温が低ければ反応が抑えられてるので、体の代謝作用がうまく働かず、不健康な状態になると考えても良いと思います。
 



細胞膜の性質


健康を考える基礎知識


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